りせの本棚。

「黒と茶の幻想」(下) / 恩田陸

 

目次

はじめに

あらすじ

雨の音を聞きながら、静かな森の中を進んでいく大学時代の同窓生たち。元恋人も含む四人の関係は、何気ない会話にも微妙な陰翳をにじませる。一人芝居を披露したあと永遠に姿を消した憂理は既に死んでいた。全員を巻き込んだ一夜の真相とは? 太古の過ぎに伝説の桜の木。巨樹の森で展開する渾身の最高長編。

講談社文庫

感想

第三部 蒔生

 それは矛盾だった。彼女は俺を一人の男として、自分のパートナーとして認めたからこそ自分の弱さを見せているのだ。だが俺は、彼女の唯一の男になりたかったけれども、彼女には俺以外の男に接するように、常に毅然としていてほしかった。

 その二つが相容れないことに、俺は徐々に苛立ちと戸惑いを覚えていたのだ。

中略

 けれど、当然ながら、実際につきあってみるということは、あこがれていた対象が自分のところに降りてくるということだ。それは素晴らしい体験であるのだが、同時に幻滅でもある。

 

P86

ここで蒔生が語っている内容と、まったく同じ感情を抱いたことがある。

それも、それなりに最近。

蒔生のように、そういう風に感じてしまった自分自身に身勝手さを覚えたけれど、それでも幻滅の感情は薄まらなかった。

つくづく恋愛って難しい、と思う。

そんなに豊富な恋愛経験があるわけでもないのに、やっぱりそう思う。

それに、きっとこういう事象は恋愛だけじゃなく、あらゆる人間関係に潜んでいる。

大人になってから友達を作るのが難しいのも、同じような原理なのではないかと最近考える。

子供の頃は、何気なく一緒に過ごすなかで、気が合う友達ができる。

大人になってからそういう機会は激減し、友情であっても、どちらかのアプローチから始まることが多くなる。

まだ親しくなる前から「友達になりたい」、「アプローチをしたい」と感じるのは一方が相手に魅力を感じているからであって、距離を縮めるにつれ、現実の相手を知っていき次第に幻滅に繋がるのではないか。

 容姿の美しさ。それはある時期の青少年には大きな威力を持つものだ。自分の容姿や他人の容姿が、人生の全てに思える時もある。もう少し大人になれば、容姿が必ずしも内容と一致しているわけではないし、内容が伴わないとどんな素晴らしい容姿もみすぼらしく見えてしまうことを知る。また、容姿の良さが幸福とイコールではないことも分かるし、むしろ並外れた容姿など普通の人間には持て余してしまうことに気付くのだが。

P90

10代、20代の頃は容姿の美しさが周囲からの評価に直結することも多い。

したがって、自分自身の容姿に良くも悪くも振り回される。

大抵の人が、コンプレックスや劣等感を抱くこともあるだろう。

しかし、美人は美人で別の苦労がある。

 こうしてみると、懺悔システムは偉大であり、神はやはり偉い。告白をした方は、どんな内容であれ気が楽になる。つらいのは、告白された方であり、告白を受け止める側なのだ。全ての懺悔を聞き入れる神は、残酷な一方で寛大なのかもしれない。

P128

人は、自分の話を聞いてもらいたい。

どんな内容であっても、人に言えないような後ろめたいことや罪ほど、本当は誰かに聞いて、受け入れてもらいたい、許してもらいたいという願望を誰もが秘めている。

第四部 節子

 歳をとることは嫌ではない。若さしか持っていなかった頃はつらかった。唯一の手持ちのカードである若さをうまく使う術も目的も見いだせず、不必要に焦ったり僻んだりしていたことを思うと、今の方が少しずつ解放されていっているという自信がある。

P210

 恋に友情、情熱に夢。そんな言葉ですらもてあましているのに、愛ときた日にはもはやどう扱っていいのか誰にも分からない。

 ティーンエイジャーの頃には遥か遠くで輝いていて、いつか到達できる言葉だと思っていたはずなのに、今では、ずっと探していたのにどこかで通り過ぎてしまった道路標識のような感じだ。結局、なくても目的地には着けた。

 愛に似たものは得ていると思う。安息とか連帯とか平穏とか。けれど、愛という言葉には凄まじい破壊力のようなものがあって、全てを愛という響きに取り込み、同化させてしまう。何もかもその名の下にひれふさせてしまう。誰もが愛にひれふすことを望んでいるけれど、一方で同じくらい恐れてもいるので、この言葉を馬鹿にしたり、嘲笑ったり、見ないふりをしたりするのだ。

P237

”愛”とはいったい何者なのか。

大人になればなるほど、ますます見失い、わからなくなる。

おわりに

社会生活。人生、生活、愛について。森の中で語らう男女四人のウィットに富んだ会話が沁みわたります。上巻と合わせてどうぞ。

りせ。

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上下合本版が出ていた…!!
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