りせの本棚。

「Talking アスカ」/ 松村栄子

目次

はじめに

あらすじ

大沢アスカは、髪を編むのが得意な高校1年生。不登校の同級生・マミと電話で話す。ちょっと気になる富田くんのこと、カッコイイお祖父ちゃんのこと、文化祭のこと、そして自分の<可能性>のこと――。(「Talking アスカ」)

表題作のほか、小4のサヤカ、予備校生の「わたし」、29歳のマユミ、それぞれの「時」を描いた短編を収録した全4編。芥川賞作家の文庫オリジナル作品集。

ピュアフル文庫

この本は松村栄子さんの短編集で、表題作を含め4編の物語が収録されている。

「悩める女王さま」、「Talking アスカ」、「窓」、「高級な人間」。

どの物語も主人公は女の子(女性)で、年齢は10歳から29歳と幅広く、どの年代も通ってきた私からすると、どの主人公にも感情移入と共感がばっちりできる。

そのなかでも特にお気に入りの短編から、いくつか感想を書いてみる。

感想

悩める女王さま

 最初は誰からもカワイイと言われてだんだんブスになっていくよりも、目立たない子供だったのがおとなになって美人になるほうが、よじったティッシュの端っこみたいなつぼみがある朝ぱーっと大きく花咲く朝顔のようで、やっぱりいいのではないだろうか。

 でも、カワイイことも美人であることも、ほんとはそんなにいいことばかりじゃない。だって、ちょっとカワイイっていうだけで性格はいじわるだと思われそうで、それがイヤだったらいつもみんなの目を気にしていい子でいなくてはいけない。でもあんまりいい子でいすぎると、今度はぶりっことか言われるからてきとうに悪い子でもいなくちゃならない。その割合はとてもむずかしいし、ましてテストの点数がいつもよかったりするといっそうむずかしくなる。そんなことばかり気にしていると、サヤカってほんとはどういう子だったのか自分でもよくわからなくなる。

P9~10

ほんとうに面白い。主人公は小4の「サヤカ」。

どっちに行っても茨の道で、周囲の評価に振り回される。女の子の人生の難儀さを、小4にして悟っているサヤカだけど、決して悲壮感はなく、そんな人生の難儀さを嘆きながらも、健気に生活している。

どの年代でも、年齢でも、結局人間関係や生きることの悩みの本質はそう変わらないんだと改めて教えてくれる。

そして、女同士の友情や関わりも。私はこういう話が大好きだ。

松村栄子さんの作品のなかでも、とりわけこの短編がわたしは大好きだ。

最初にこの「窓」を読んだのは実は別の文庫で、高校生の頃に偶然手に取った、さまざまな作家さんの短編からなるYAのセレクションだった。

そのなかでも、この作品がずっと忘れられず、心の奥底に沈みつつも、確かにしっかりとスペースを確保するように残っていた記憶がある。

久しぶりにこの作品を読み返したくなって、去年になってその文庫を買おうと思ったけれど既に絶版で手に入らず、この「Talking アスカ」の中古本を購入した。

何から解放されたいのだろうかとわたしは考える。やはり病からか、退屈からか、もっと深刻な死の恐怖からか? 世俗的なしがらみから、意に添わない競争から、愚かな自分から……そういうものから解放されたいと思うことならわたしにだってある。とりわけ白紙のまま放置された自分の未来から解放されるものならされてみたい。

 けれども彼やわたしだけがとりたてておぞましい現実に囚われているわけではないし、ひとり不幸ぶって嘆いてみても馬鹿みたいだと、そう言いかけて、これではあの変な男の子の見当違いな忠告そのままだと気づいて黙り込んだ。

P128 ~129

この短編の主人公の「わたし」は浪人中の予備校生。予備校に通いながら受験勉強に励まなければならないのに、どうにも集中できない。そしてひょんなことから、予備校の向かいにある病院に入院中の男の子と交流するようになる。

同年代のその男の子は既に優秀な大学生で、未来が「白紙のまま放置」されている「わたし」の視点から見れば、果てしなく明るい未来が待っている。

そんな二人の会話はとても軽やかで、読んでいて楽しい。微笑ましく、お似合いだとも思う。

大学生の頃、自分には経験も知識も自信もまだ、何もない状態で、空っぽなまま生かされているのが本当に辛かった。

今だって経験や知識や自信が満足についているかと訊かれれば疑わしいけれど、少なくともあの頃とは違う。

この物語を初めて読んだのは高校生の頃で、「わたし」と同じような無力感や漠然とした不安感、絶望を抱えていて、自分の内面とリンクした気がした。

そして、ラストの展開に驚いて息を飲んだ。

予想外の展開も含めて、心に深く刺さったのだと思う。

生と死、というものの概念が少しだけ、いや、当時の自分にとってはとてつもなく大きく、オセロのようにひっくり返されたような気がした。

好きな作品であればあるほど、言葉でその美しさや魅力を説明するのは難しい。

ぜひ読んでみてほしいです、としか言えなくなってしまう。

おわりに

悩める学生から大人性まで、この現代社会を懸命に生きる女性たちに贈りたい普遍的な一冊。

りせ。

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