りせの本棚。

「冷たい校舎の時は止まる」(上) / 辻村深月

目次

はじめに

あらすじ

雪降るある日、いつも通りに投降したはずの学校に閉じ込められた8人の高校生。開かない扉、無人の教室、5時53分で止まった時計。凍りつく公舎の中、2ヵ月前の学園祭の最中に死んだ同級生のことを思い出す。でもその顔と名前がわからない。どうして忘れてしまったんだろう――。第31回メフィスト賞受賞作。

講談社文庫

この本に出会った経緯

大学時代に、辻村深月さんの過去作品を読み漁っていた流れで出会いました。

好きな作家さんのデビュー作は、基本的にチェックしたいタイプです。

感想

「あの日、飛び降り自殺をしたのは、誰か。」

閉じられた校舎のなかで、高校生8人が謎を解くために自分たちの過去と向き合う。

館モノのミステリー小説でありながら、青春小説としての側面も強いこの作品は、一度読むとなかなか忘れがたい印象を残します。

第三章 「女友達」

 思うに人間は、本当に泣きたい気分になっている時、それができる場所に辿り着くときっとこんな顔をするのだろう。泣きたい癖に、一応礼儀のように作ってみせる無理のある笑顔。その前の半年間で、鷹野は世の中にはそういうものが存在するのだと知った。深月のせいで、だ。

P132

深月といい月子といい、辻村さんの初期作品に出てくる繊細な女の子が好きだ。

特に今よりも心がしんどいことが多かった10代の頃は、読んでいてものすごく共感したし、救われていた。

この作品には痛々しいくらいに感情豊かで、揺れ動く高校生たちが出てくる。

 仲良くできないと。もう口を利きたくない、と。

 たかが友達の一人にそう言われたくらい、どうということもない。そう大人たちは言うかもしれないし、近いことは鷹野も思わないでもなかった。しかし自分たちにとって学校の、教室の中というのは狭くて大事な生活の中心だ。その小さな空間の中に生じた大きな蟠りがどんなに重要な物であるのかは、少し考えてみれば容易に知れるだろう。それにもともと深月には情が深いところがあって、彼女は自分が一度知り合って気を許した人間に対して気持ちを切り離すということがなかなかできない。深月は病的なまでに春子に振り回されていた。

P198

こういう女子同士の関係性について書かせたら、辻村さんは手練れの迫力がある。

本作の深月と春子の関係性といい、「子どもたちは夜と遊ぶ」の月子と紫乃といい、彼女の描く若い友情は一筋縄ではいかない。

嫉妬や優越感、マウントなどを受け、傷付いている、傷つけ合っているのに、簡単には離れられない。好きなのに苦しい。仲良くしたいのにできない。

難しいのは、恋愛関係だけじゃない。友情だって、息苦しい。

第四章 「事件当日」

 自殺の動機。

 そんなものはもともと、ここにいる人間の中には欠片も見当たらない。悩みくらいは確かにあったかもしれない。しかし、それが自殺なんていう発想と、そう簡単に結びついてしまうものなのか。それともそれはもっと自分の全然知らないところで、ただひたすら親鳥が卵を孵化させるようにして温められてきたものだったというのだろうか。

 知らない原因。親友の持つ、自分の知らない顔。

 そんなものがあったとしたら、深月は寂しいと思うしやりきれないと思う。それを抱えたまま、死んでしまうなんてつら過ぎる。

P281

どんなに親しい関係性でも、親友であっても家族であっても、あるいは恋人であっても、その人の深い部分の悲しみや本心はわからない。

だからこそ辛いし、無力感を覚える。

でも、それでもできるだけ、大好きな子が悩んで苦しんでいるのだったら、寄り添いたい。一人ぼっちにはしたくない。

深月の気持ちに共感しながら、この年になってなお一層、そういう思いは募る。

一つ一つの命が、軽く扱われている世の中だからこそ。

辻村作品の中の人間関係は、フィクションより限りなくノンフィクションに近い。

だからこそ感情移入してしまうし、胸が痛くなる。そういう切実な苦しさを味わいたくて、小説を読んでいる自分もいるんだと思う。

第六章 「明るい絶望」

充くんの章が、すごく好きです。

今読み返してみて、ますます身に染みて痛いほどだった。

 自主性のあるでない、他人を受け入れるだけの無責任な優しさ。充の中にあるのは、そんな空っぽなものだけだ。

 自分は結局主人公にはなれないし、誰かのことを心から支えることもできないのだろう。そんな自分に、充は明るく絶望している。仕方のないことだ。それはもう。そう思って、全てを諦めている。

 深刻に悩んだり、将来を悲観したりはしない。ただずっと自分が変わることができない、それに対して少々嫌気がさすだけだ。この先ずっと、自分はそうやって生きていく。

 だからこれは、明るい絶望と前向きな諦め。

P360 ~361

誰もが感じたことのある類の感情が美しく言語化されているのを読むと、毎回新鮮な感動を覚える。

充のような「優しい」男性に、実際何人も会ったことがある。

その「優しさ」を好意と履き違えられ、恋愛トラブルを起こしている人も見たことがある。

そして、充に優しさを求める女の子側の立場になったこともある。

大事なことは、全部小説から教わった。

私は理帆子じゃないけど、こういう文章を読む度に、いつもそう思う。

 充は、胸の奥に痛みを覚える。得体の知れない息苦しさがあった。

 何気なく充の貸した小さな消しゴム。それを貸す、ただしそれだけの手に縋りつきたくなるようなその衝動。世の中にはそういうものがあるのだ。

P385

綺麗な感情だけじゃない、醜い人間の感情や弱さ、脆さ。

そういうものも肯定してくれる。存在していいのだと教えてくれる。

だから小説が大好きなんだって、改めて思う。

「大丈夫」

彼が言った。

「お前もさっきの彼女も、いつか絶対に大人になれるから」

「本当に?」

満は顔を上げた。榊は笑う。ふざけた様子のない、穏やかな笑みだった。

「多分ね」

P396

この言葉に、10年前、どれだけ救われただろう。

「いつか絶対に大人になれる」

辻村作品にたびたび出てくるこのフレーズ。

こんなに苦しいのが永遠に続くわけじゃない。

そう信じられて、今よりも切実に繊細な時代を乗り越えてこられたんだとしみじみ思う。

第七章 「消えた一人」

「あのね、深月ちゃん。物事をマイナス方向にばっかり考えたり被害妄想が強い人って、自分にすごく厳しい人なんだって」

そう言った。

「自分が傷ついても、他人を庇ってしまって自分の中にどうしても原因を探す。それって、すごくエネルギーが要るし。そういう人はね、本当はすごく優しい人なんだって。俺はそういう深月ちゃんが好きだけどねー。でも、本人は多分ものすごく苦しいでしょ」

P444

8人の中だったら、昭彦くんがとりわけ好き。

自分自身が深月ちゃんみたいに感情豊かすぎるタイプだから、少しドライで、でもだからこそ優しい昭彦くんに惹かれるし、いいなあと思う。

おわりに

辻村深月さんのデビュー作。読みごたえ、ボリューム抜群の青春ミステリー小説です。

りせ。

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四六時中忙しく働き続ける脳みそに
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